コーチングにおける「受け入れる」と「受け止める」の違い

「ちゃんと聴いているつもりなのに、なぜか会話がかみ合わない」
「否定したつもりはないのに、相手との間にふっと距離ができてしまう」
そんなもどかしさを感じたことはないでしょうか。
その背景には、私たちが無意識のうちに使っている「受け入れる」と「受け止める」という二つの関わり方が、静かに影響しているのかもしれません。
どちらも「相手の話を受ける」という点では似ていますが、コーチングの世界では、この違いを理解しているかどうかが、信頼関係や会話の深さを大きく左右します。
ここでは、「受け入れる」と「受け止める」の違いを日常にもなじむ形でご紹介します。
「受け入れる」──賛同と応援のまなざし
まず「受け入れる」とは、相手の言動や感情に対して「それ、いいですね」と賛同し、背中を押すようなまなざしを向けることだと考えてみます。
たとえば、クライアントが「今年こそ、チームの雰囲気を良くしたいんです」と話してくれたとします。そこでコーチが「すてきな目標ですね。どんなチームにしていきたいですか?」と返したら、クライアントは自分の思いを肯定してもらえた感覚を持ち、少し胸を張って次の言葉を探し始めるかもしれません。
また、「前から気になっていた資格に挑戦してみようと思っていて......」というつぶやきに、「その気持ち、大事にしたいですね」と寄り添う一言が、「やってみてもいいのかもしれない」という前向きなエネルギーを生み出すこともあります。
このように「受け入れる」関わり方は、相手のやる気や自己肯定感を支え、行動への一歩を後押ししてくれるものです。
一方で、どんな話にもとにかく「いいですね」と返してしまうと、人によっては「表面的に合わせられているだけかも」と感じてしまうこともあります。賛同の言葉が、相手によっては"わかってもらえていない感じ"につながってしまうこともあるのです。
そこで、もう一つの関わり方「受け止める」が大切になってきます。
「「受け止める」──評価をいったん脇に置いて聴く
「受け止める」は、相手の言葉や感情を、賛成か反対か、正しいか間違っているかを判断する前に、「この人にはこう見えているんだな」と理解しようとする姿勢です。
自分の価値観からすると、すぐにはうなずきにくい話を聴くこともあるでしょう。そんなとき、「それは違うと思いますよ」と評価を伝えるよりも先に、
「そう感じておられるんですね」
「そう考えるようになったきっかけがあれば、教えていただけますか」
と、相手の背景に関心を向けてみる。
自分の物差しをいったん机の上に置き、「この人の物差しはどんな形をしているんだろう」と、そっと眺めてみるイメージです。
その瞬間、相手は「否定されていない」という安心感を得やすくなります。
「ここなら、もう少し本音を話しても大丈夫そうだ」と感じて、これまで言葉にしてこなかった思いや迷いを、少しずつ見せてくれるかもしれません。
コーチングでよく言われる「安心・安全な場」は、こうした「受け止める」関わりの積み重ねのうえに、静かに育っていくのだと思います。
「コーチングが大切にしている「順番」
では、コーチングの場では「受け入れる」と「受け止める」のどちらを大事にすればよいのでしょうか。
答えは、「どちらも大事」であり、そのうえで「順番が大事」です。
まずは、相手の言葉を評価せずに聴き、受け止めること。途中でさえぎらず、「この人は今、何を感じているのかな」「どんな景色を見ているのかな」と、相手の世界を知ろうとすることから始めます。ここで、信頼と安心という土台ができます。
そのうえで、相手が大事にしていることや、踏み出そうとしている一歩が見えてきたときに、「それを大切にしているんですね」「そのチャレンジを応援したいです」と、受け入れる言葉をそっと添える。
そうすることで、相手の中に眠っていた前向きな力が、自分自身の意思として立ち上がってきます。
もし、受け止める過程を飛ばして、最初から「いいですね」「それはやめたほうがいいですよ」と評価だけが行き交うと、相手は「本当のところをわかってもらえていない」と感じてしまうかもしれません。
逆に、受け止めるだけで終わってしまうと、「理解はしてもらえたけれど、じゃあどうしよう」という次の一歩に踏み出しにくい場面もあるでしょう。
そのときどきで、「今この瞬間、この人にとって必要なのは、理解だろうか、それとも応援だろうか」と、自分に問いかけながら二つを行き来していくこと。
そこに、コーチングならではの関わりの妙があるように感じます。
「自分の「聴き方」をそっとふり返る時間
日常の会話の中で、ふとした瞬間に、自分の聴き方をふり返ってみることがあります。
相手の話を聴きながら、心のどこかで「それは違う」「そんなふうに考えるべきじゃない」と判断してしまってはいなかったか。「がんばってくださいね」と声をかけながら、本当に相手の気持ちを受け止めていただろうか。
あのとき、相手がほしかったのは、正しさのアドバイスだったのか、それとも「そう感じているんですね」という理解のひと言だったのか。
大げさなことをしなくても、こうした小さな問いを自分に投げかけてみるだけで、コミュニケーションの質は少しずつ変わっていきます。
「受け止める」と「受け入れる」の違いを意識し始めると、同じ言葉をかける場面でも、選ぶフレーズや声のトーンが自然と変わってくるかもしれません。
「受け入れる」と「受け止める」を、体験として腑に落とす
ここまで読んでくださった方の中には、「『受け入れる』と『受け止める』の違いは、なんとなくイメージできた」と感じてくださった方もいらっしゃると思います。
ただ、実際の会話の場面では、言葉そのもの以上に、声の大きさや速さ、間の取り方、うなずき方、表情など、文章では伝えきれない要素が大きく影響します。
同じ「いいですね」という言葉でも、軽く流すように言うのか、相手の目を見て、ゆっくりと心を込めて伝えるのかで、受け取る印象はまったく違ってきます。
コーチングも同じです。
「どんな言葉を使うか」という知識も大切ですが、「どんなあり方で相手の前にいるか」という感覚は、人と向き合いながら体験していくことで、少しずつ自分のものになっていきます。
本や記事で学ぶことは、その入り口としてとても有効ですが、それに加えて「実際に話してみる」「聴いてもらう」経験を通して初めて、「ああ、こういうことか」と腑に落ちる瞬間があるのではないかと思います。
さらに一歩進むために
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「受け入れる」と「受け止める」。
この二つの違いを知り、体験として味わっていくことは、相手との対話だけでなく、自分自身との対話を少しずつやさしくしてくれます。
日常の会話を、もう少し心地よく、もう少し安心できるものにしていきたいと感じているとしたら、この記事と、そしてコーチング無料体験講座が、その最初の一歩としてお役に立てば幸いです。