「気持ち」と「思い」の違いが行動を左右するとしたら?

コーチングの場で、クライアントの口から出てくる言葉を丁寧に拾っていくと、「〜したいと思います」といった"思い"の表現が多いことに気づきます。
一方で、行動を後押しするうえで本当に鍵になるのは、"嬉しい""ワクワクする"といった感情――つまり"気持ち"の方です。
似ているようでいて、少しだけ違うこの二つの言葉。その違いを理解すると、セッションはぐっと動きやすくなります。ここでは、「気持ち」と「思い」の違いについて、コーチングの視点から考えてみたいと思います。
「気持ち」と「思い」は、同じようで微妙に違う
コーチングでは、「どんな気持ちになりますか?」と尋ねる場面がよくあります。
ところが返ってくるのは、「そうなったらいいなと思います」「前に進みそうに感じます」といった"思い"の言葉。 決して悪いわけではありませんが、ここには小さなズレが潜んでいます。
"思い"は、意志や願い、考えの方向性を含んでいて、どちらかと言えば「頭で捉えるもの」です。 「こうしたい」「こうありたい」といった意図や決意に近いニュアンスがあります。
それに対して"気持ち"は、胸の奥からふっと湧き上がる感情そのもの。 嬉しい、ほっとする、切ない、ワクワクする――といった、身体の反応を伴うような内面の動きです。
どちらも大切な内側の世界ですが、行動のスイッチを押すうえで力を発揮するのは、この"気持ち"のほうです。
感情が動いた瞬間、人は自然と「やってみようかな」と心が前に傾きます。 そのため、セッションではクライアントが"思い"の段階にとどまっていないかどうかを、さりげなく見極めながら進めていきたいところです。
行動を後押しするのは、意志よりも"気持ち"の力
コーチングの現場では、よく「ワクワクが行動を生む」と言われます。
たしかに、人は「やらなきゃ」という義務感よりも、「楽しみ」「安心」「期待」といった気持ちに支えられたときのほうが、前向きに行動しやすくなります。
とはいえ、クライアント自身がその感情にまだ気づいていないことも少なくありません。 「〜したいと思う」は意図の表明であっても、感情がどこまで動いているのかは、まだはっきりしないことが多いのです。
そんなときには、「それを実行できたとき、あなたはどんな気持ちになっていそうですか?」 と、そっと問いかけてみます。
もし気持ちの言葉がうまく出てこないようなら、胸が軽くなる感じがあるのか、表情が少し緩むのか、身体の変化を手がかりにしてもらうのもひとつの方法です。
そうして内側をたどっていくうちに、「ほっとしていそうです」「少しワクワクしているかもしれません」といった言葉が自然と出てくることがあります。
感情に名前がついた瞬間、クライアントの表情がふっと和らいだり、声のトーンが変わったりすることがあります。 その"気持ち"こそが、次の行動を支えてくれる確かな火種になります。
最後に「今どんな気持ちですか?」と聞いてみる
セッションの終わりに、「今はどんな気持ちでいますか?」と改めて尋ねてみると、クライアントは今日の時間をゆっくりと振り返ることができます。 それは、行動の源にそっと触れる、静かで大切なひとときです。
今日のセッションで得られた気づきが、ワクワクにつながったのか、安心感につながったのか、あるいは少し不安も混ざっているのか。 どんな感情であっても、それを自分の言葉で確かめることは、次のステップにつながる大きな一歩になります。
"思い"は意図や決意の源であり、
"気持ち"は行動を生み出すエネルギー。
この二つがかみ合ったとき、クライアントは自らの力で大きく動き始めます。
コーチとして、クライアントの"思い"を尊重しつつ、その奥にある"気持ち"に丁寧に寄り添っていくことができれば、セッションの場はより豊かであたたかいものになっていくはずです。
おわりに
コーチングに関心をお持ちの方は、身近な人との会話の中でも、あえて「それをやれたとしたら、どんな気持ちになりそう?」と聞いてみると、いつもとは少し違う対話が生まれるかもしれません。
銀座コーチングスクールでは、こうした問いかけや会話のスタイルについて、実際に体験しながら学べる「コーチング無料体験講座」もご用意しています。
「もう少しコーチングを知ってみたいな」と感じられたときに、ふと思い出していただけたら嬉しく思います。