コラム「『獲得』よりも『与える』 ― 差し出せば巡り巡って還ってくる」
前回は「自分は本当はどうしたいのか」を明確にしておくといいという話をしました。在りたい姿が基本にあれば、どうすればいいかが見えてきます。
とは言っても、「在りたい自分はどんな自分?」と聴かれても、たいていの人は簡単に即答はできないのではないでしょうか。
現代人はスピード社会の中で、いかに効率よく、いかに高い目標に到達できるか、そのために目の前に現れるさまざまなやるべきことに追われていて、「在りたい自分」ばかりか、自分自身と向き合う習慣さえないように感じます。
今どちらの方を向いているのか。
持てる力を発揮して循環させているのか。
そんな問いを自分自身に投げかけて、得たものと提供したものに想いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
昔、編集会社を立ち上げて数年経った頃のことです。自営業に不安定はつきものですが、大きなレギュラーの仕事が一段落して、そろそろ新規を獲得しなくてはと思い、営業活動をしたことがあります。そして、何社かの仕事を受注しました。
しかしその仕事をしている途中で、人手不足や注文の多さなど、報酬に見合わないことがわかってきて、この仕事はちょっと厳しいなと感じるシーンがありました。
そう感じながら、モチベーションを維持するのもひと苦労です。何度か似たケースに遭遇して、ある時、もう自分から営業をするのはやめようと思ったことがありました。なぜなら、営業をしなくてもお声がかかる仕事の方が、はるかにやりがいや達成感を感じるからです。
どうして、そんなことが起きるのか。
その時は、ジンクスのように「自分から望んで売り込んだ仕事はうまくいかない」と思っていましたが、よく考えると、それは、仕事をする上での「自分の視点」の違いにありました。
新しい仕事がどのように来るかには大きく分けて2つの種類があります。
ひとつは、困っている人(会社)を自分の力で助けたい、または自分の力を先方に提供してさらによくなってほしいとか、がんばっている知り合いに有償でなくても力を貸して役に立ちたい。いわば、貢献や恊働の気持ちから発生したもの。
二つ目は、新規を獲得して売り上げをあげたいとという、経済的つまり自分の欲から発生したものです。
極端な言い方をすると、前者は「与える」。後者は「獲得する」ことが目的です。
そして、外部から声をかけていただく「前者」のケースは、自尊感情が高まるので承認欲求が満たされて意欲的になれます。「声をかけてもらったうれしさ」があります。
一方後者は、いわばお金のために働く仕事。
「お願いして仕事をいただいた」という意識になるので、どこかで「この仕事は本来やりたかったわけではない」という気持ちが働きます。
この「視点」の違う2つのケース。いかがでしょうか。
「与えたいからする。もらいたいからする」という、自分が見ているところが違うだけで、結果が大きく変わってきます。
それは自分の視点であって、誰かのではありません。
多くの人が、力を発揮して仕事をて、人から感謝され、認めてもらいたいと思っています。承認欲求を満たしたいと思っています。承認されているという認識は、とてもやる気を高めます。
私が、自分自身が承認欲求をしていたと思える時期を振り返ると、それは自己信頼が低迷していた時でした。
自分を低く評価しているから信頼できないのですが、どんなに小さく弱い力だと感じたとしても、不足しているものを満たそうとするより先に、まず「与える」ことをしてみてはいかがでしょうか。力の大小は実はさほど大問題ではないかもしれません。
「利他の精神」」とか「無私の人」という言い方があります。人はそんな人を応援したいと思うでしょう。
一時的な損得ではなく、差し出したものは巡り巡ってやがてまた還ってくる。それは確かなことのように思います。 ー 第2回 おわり ー
◇ 山上 晴美
2009年よりコーチとして活動。コーチングを学んで「自分を探求する面白さ」に気づく。自分を知り、心の仕組みを知ると、人間関係も変わってきます。終わりのない旅のように続く自己探求を続けながら、現在、自然派生活、宇宙を味方に付ける方法、生と死などを勉強中です。GCS認定講師 / 元 GCS東京本校・東神田クラス 講師
山上コーチの詳しいプロフィールはこちら
(このコラムは、「GCS認定コーチ向けニュースレター」(2017/7/20)に掲載されたものです。)