セッションの戦略とコーチングマインド
コーチングは、相手の話に耳を傾け、すべての答えは本人が持っているという考え方に立ち、相手の中にあるものを引き出していくコミュニケーションスキルです。したがって、セッションの「戦略」は、コーチ自身が持っている考えや答えに相手を導くためのものではないということに注意する必要があります。
セッションの戦略とコーチングマインド
コーチングセッションを効果的に機能させるには、その運営にあたっての「戦略」をしっかりと持つ必要があります。この「戦略」は、相手からより多くのものを引き出し、ゴール達成へ向けての行動をしやすくなるようにするためのセッションの運営方針や方向性のことを指します。
コーチングは、相手の話に耳を傾け、すべての答えは本人が持っているという考え方に立ち、相手の中にあるものを引き出していくコミュニケーションスキルです。したがって、セッションの「戦略」は、コーチ自身が持っている考えや答えに相手を導くためのものではないということに注意する必要があります。
具体的には、セッションにおいて、何に焦点を当てるかがセッションの「戦略」だと言えるでしょう。相手の特性や置かれている状況により、焦点を当てるべきポイントは異なってきます。
たとえば、相手のモチベーションが下がってしまっている時は、ゴール達成時のイメージを描くことに焦点を当て、モチベーションを上げていくことを目指すとよいかも知れません。また、ストレスや不満を抱えている場合には、ゴール達成時のイメージを描くことに先立ち、とにかく不満を吐き出させ、「認める」「聴く」といったスキルを用い、しっかりと相手の気持ち受け止めていくことが大切になるでしょう。とにかく話に耳を傾けることを徹底するというのも、立派なセッションの戦略です。
相手の頭の中が混乱しているような場合は、現状把握に焦点を当てる戦略が考えられます。現在、何がどうなっているのかを、的確な質問により、解きほぐしていくことに集中します。そうすることで、誤解や思い込みを解消したり、大きな「気づき」を得ることができたりもします。
上記はいずれも、状況に応じて焦点を当てていくことが求められるので、随時変えていくことが大切です。コーチに求められるのは、その状況を見極め、どのような戦略、すなわち何に焦点を当ててセッションを運営していくのか、明確な意図を持つことです。
もう一つ、重要な考え方として、コーチは相手に「戦略」を押しつけるものではないということがあります。どこに焦点を当てるべきか、コーチとして考える必要はありますが、相手としても、どこに焦点を当ててセッションを進めて欲しいという要望があったりします。双方の思惑が異なれば、当然、セッションが噛み合わなくなってしまいます。
そのような状況を避けるために、コーチは相手に、率直にセッションをどのように運営して欲しいかを尋ねてしまうのは、有効な方法です。どこに焦点を当ててセッションを進めて欲しいか、率直に聞けばよいのです。
たとえば先ほど、「ゴール達成のイメージを描く」「不満を吐き出す」「現状を正確に把握する」という焦点の当て方をご紹介したが、これら3つは、戦略の選択肢となり得ます。状況を踏まえ、どれでセッションを進めるかをコーチが決めてもよいですが、どの方向でセッションを進めたいかを相手に尋ねれば、より確実です。
私の経験する限りでは、相手に尋ね、意思を確認しつつセッションを進めていけば、まず大きくはずすことはありません。逆に、コーチ側の思い込みや先入観で戦略を推し進めてしまうと、セッションの最後の方になって、「実はもっと別のことを話したかった」と言われてしまったりします。言ってくれるだけましであり、その機会がなければ、コーチへの信頼感が損なわれてしまうのは避けられません。
コーチングの基本は、相手(クライアント)が主役だということです。コーチの満足のためではなく、クライアントの満足のために、セッションは行なわれます。クライアントの可能性を100%信じると共に、その意思を最大限に尊重することこそがコーチングの基本であり、それは「コーチングマインド」とも呼ばれます。
コーチングは「コミュニケーションスキルの一つ」と定義されることから、「言葉のテクニック」と誤解される面が多いのが事実です。しかし、コミュニケーションには、言葉だけではなく、人と人との全人格的な関わりという要素が少なからずあります。コーチングを学び、実践していくことにより、自己基盤(人間力)や、コーチングマインドといった要素の大切を、より深く理解することができるはずです。それがコーチングに関わることの醍醐味であり、多くの人たちを魅了しているのです。